2012.03.08
大震災から1年たって
「これから東京を出発しますね。」というお客様からの電話を頂き、
「お気をつけていらっしゃってください。」とお答えし、
しばらくすると、目眩のような ものを感じ、「もしかして地震!?」と気づき始めました。
宿は岩盤の上に立っており、日頃からあまり地震を感じたことがありません。
この日も食器ひとつ割れませんでしたし、火も使っていましたが、
おなべの中が波打つこともなく、さほどの危機感はありませんでした。
テレビをつけると、仙台で大地震発生ということを知り、昨年アルバイトをしてくれた
仙台に住んでいる佐野君のことが心配になりましたが
電話連絡で無事ということで一安心。
そして1時間位すると、8メートルの津波がきますという漁業無線が鳴り響きました。
お客様を宿のすぐ後ろの高台 妙海寺さんへ託し、
私たちは外に出て海の様子を見ていることにしました。
海の水がどんどん無くなっていきます。
もしかして津波が来るのではと、この時初めて怖くなりましたが
地元の人は、皆明るく、日頃家にいるお年寄りまで出てきて
まるでお祭りのようでした。今では笑い話ですが、海水が引いたとき、
あわびやサザエを後で取りに行き、儲けた人がいたという噂を聞きました。
南房総ではこの時、東北の人々が大変なことになっているとは、知るよしもなく、のんきでいられたのです。
ただ、漁船は皆、沖で待機して一晩を明かしました。
その漁火がとても綺麗だったことを覚えています。
東京を出ますと、お電話いただいたお客様が心配になり電話をいくらかけても通じません。
だんだん東北が、すごいことになっているという情報が入り始め
東京でも大混乱が起きているということがわかってきましたが、
宿では何事もなく、お客様のお夕食も30分遅れでしたが滞りなく終えることができました。
その日は空気が澄んだすばらしい夜空で、あくる朝は快晴で素晴らしい神々しい朝日でした。
東京からいらっしゃるはずのお客様とは、深夜にやっと連絡がとれましたが、
今どこにいるのかわからない状況で、たいへんな御苦労だったと思います。
その日から宿では、たくさんのキャンセルの電話の対応に追われることになりましたが
皆が無事であったことが何より幸運でした。
1年たって1番嬉しいことは、昨年キャンセルしたお客様がリベンジといって再度予約をしてくれること。
そして、なんと被災地からのお客様が、気分転換になるとおっしゃって泊まりに来てくれることです。
どん底を知った人は強いといいますが、かえって元気をもらいます。
宿のホームページでもご紹介した、被災者のためにいち早く高級旅館を
惜しげもなく自費で提供した山形の櫻湯 山茱萸さんからも、丁寧なお手紙を頂いたり
(たった一度泊まらせて頂いただけですが)、
娘が始めての一人旅でお世話になった、石巻の田代島の復興プロジェクトからも
『支援をありがとうございました。田代島はがんばっています。』
というメールを、つい最近頂きました。
そこに親戚がいなくても、知り合いがいなくても、
1泊その土地に宿に泊まれば、
そこはその人の故郷になる。
そう思わせてくれた1年でした。
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