2011.12.15
冬の日の出
一通のお手紙が届きました。
秋冷の侯お変わりありませんか。
私ももう満90才、長生きしていますがもう限界。
歩行はほとんど出来ず、室内で床にべったり座ったままで絵筆をにぎっています。
このカレンダー、一月・二月号は宿の左の室の窓から描きました。
今開催中の日展作・絵葉書と同封します。
御健康でよいお年を・・・。
11月 島田 利一
カレンダーは、警視庁/東京防犯協会連合会のものです。
景色は菖蒲の間より、【冬の日の出】です。
カレンダーの絵がいついらっしゃった時に描いたのかわかりませんが、最後にお会いしたのはだいぶ前だったような気がします。
お見送りの時のこと、車の後ろに絵の道具をたくさん無造作に積んであり、車がバックする時絵筆がごろごろ転がったのを覚えています。
少し運転が心配で、無事に御自宅にお帰りになるよう祈っておりました。
先生は一人旅でふらっと絵を描きにきたり、時には文化教室の生徒さんをたくさん引き連れて、写生旅行の宿として利用して頂いたこともあります。
その時、お客様のおひとりから、この先生はとても偉い人だから気を付ける様にといわれ、穏やかで優しい先生が実はすごい人なのだと思ったものでした。
写生旅行はあいにく天気に恵まれず、宿内から海を描くことになった時のことでした。先生は絵の指導よりも宿の備品に絵の具をつけないようにと言って歩いておりました。
絵を描くことよりもマナーを優先したのです。
お帰りになった後、先生が心配した通りいろいろな所になかなか落ちない鮮やかな油絵の具がついており、落とすのが不可能なところもありました。絵の上達よりも前に、宿に迷惑を掛けないことを優先する先生の姿に、本当の芸術家を見た気がしました。
今年は、3月11日の大震災で、ものごとの価値観が皆少し変わったと思います。
どんなに努力をしても、どうにもならないことが起こってしまう現実と向き合い、そんな中で、家族の大切さをかみしめ、人々の優しさもたくさん知りました。
震災後、お客様がまったくいなくなってしまった時、常連さんがさりげなくいつものようにいらして下さったこと。当宿だけではなく、すべての宿の人々が本当にうれしかったことです。
お客様あっての宿、
私たちも島田先生のように出来る限り宿にたずさわっていけたらと思っています。
来年は何事もなく、穏やかな一年になるといいですね。
御利用して頂いた全てのお客様
本当にありがとうございます。
よいお年をお迎え下さいませ。
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